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診断書の法的側面~日馬富士事件の場合~

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みなさん、こんばんは。
かなり寒くなってきましたね。

ところで嫌でも連日目に入ってくるニュースの一つに
横綱日馬富士の事件がありますね。
現役横綱の不祥事として、朝青龍の不祥事を思い出す方も多いでしょう。
こんな事件があると、九州場所で頑張っている力士よりも、こちらの方が話題になり、
なんとも後味の悪さが拭えません。

日馬富士は巡業では、子どもや車いすの人、障がい者などには自ら歩み寄り、
車いすの人との写真撮影では必ず膝を折って座るなどの優しい力士で、
子どもから大人までファンも多かったと思いますが、
その裏では非常に酒癖が悪かったとも言われていますね。

そもそもお相撲さん(力士)は、江戸時代などは、尊敬される対象であり、
その中でも一番頂点ともいえる横綱になる力士は
その地位にふさわしい品格と抜群の力量を要求されます。

その品格基準は、日本相撲協会によると以下の5つです。
一、相撲に精進する気迫
二、地位に対する責任感
三、社会に対する責任感
四、常識ある生活態度
五、その他横綱として求められる事項

しかし近年は朝青龍といい、この日馬富士といい、問題が多いようです。

普段どんなにファンに優しかろうと、その裏で酒癖が悪くてはいけませんね。
まぁ、百歩譲って、相手の貴ノ岩の言動や行動に問題があって、
それに立腹したのだとしても、暴力はいけません。
力士が殴ると、それが素手であろうが、普通の人の力ではないのです。
それで相手が怪我を負えば、世の中では立派に「傷害罪」です。

もしも、ビール瓶で殴った、あるいは殴ろうとして手をかけたのが事実とすれば、
事態はもっと深刻と言えます。

さてさて、ここで登場するのが、今問題になっている「医師の診断書」です。
相撲協会が公表したの診断書 ←リンクあり。

福岡県済生会病院の脳神経外科の主任部長が作成したものですが、病名は以下の5つ。

#1 脳振盪(のうしんとう)
#2 左前頭部裂傷
#3 右外耳道炎
#4 右中頭蓋底骨折・髄液漏の疑い

つまり、診断書の頭蓋底骨折と髄液漏れは、双方とも「疑い」です。

「上記傷病にて、平成29年10月26日に受傷し、
11月5日より11月9日まで当院入院加療を実施しました。
全治2週間程度と考えられます。
その間に症状が安定すれば、仕事に復帰が可能と思われます。」
という診断内容です。

しかし、後日、後出しじゃんけん的に、以下のように述べているようです。
今回の傷害との因果関係も分からない。
全治2週間というのは、事象が発生した10月26日から
11月8日までの2週間という意味、
11月9日の時点では状態が安定しており、
相撲を取ることを含め仕事に支障がないと判断した。
貴ノ岩の症状に現状は問題がないという認識である。

また、「当院としても、重傷であるように報道されていることに驚いている」
と述べているようですが、
まるで対岸の火事のようにこんな発言をする医師はどうなんでしょうね。

もちろん、医師が受傷と事件の因果関係を証明する必要など全くありません。
ですが、普通の日常生活で、上記の4つの診断のような状況にはならないわけですから、
そこは当然事件との因果関係があると類推されるわけですよね。

こうした診断書の内容に疑問を呈する医師や、警鐘を鳴らす医師もいます。
「頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」。紛らわしい診断書 ←リンクあり。

私もこの診断書の書き方はどうかと思いますし、後から言ってることなんて
完全に責任回避目的というか、とても言い訳がましい感じしかしません。

そもそもこの診断書の日付は11月9日です。
診断書の作成日には状態が安定しており、問題がないと判断し退院させているのであれば、
この時点で#4右中頭蓋底骨折・髄液漏の疑い は不要のはずです。
世間一般の感覚として、右中頭蓋底骨折・髄液漏 というのは
かなりの重傷だと思われて当然です。
今回メディアが大騒動になったのも、この病名があったからだと言っても
過言ではありません。
診断書は医師の発行する証明書なのです。
「疑い」病名を診断書に乱発するのはいかがなものかと思います。

さらに11月5日から11月9日までは「入院加療」だったのでしょうか?
それともいわゆる「検査入院」だったのでしょうか?
受傷が明らかで、それを治療するための入院なのか、
よくわからないけど念のために検査入院したのかでは全然違います。

診断書の提出先というのは、会社であったり、警察であったりしますね。
今回の場合は警察と、相撲協会の2カ所に提出したわけですが、
診断書というのは法的な側面も持っています。
この診断書をもとに、警察は日馬富士を書類送検したり、起訴したり、
相撲協会も日馬富士への処分を決定するわけですから、
後から「こういう意味でした」などと追加するような紛らわしい診断書は、
そもそも診断書の意味がありません。

医師の診断書というのは重要なものです。
もちろん法的側面があります。

つい最近も京都府立医大の前院長らが、暴力団組長の収監逃れのために、
病状を重傷のように書いた、虚偽報告で書類送検されていますね。

まきメンタルクリニックでも診断書の作成を依頼されますが、
症状に見合ってないような、不必要に長期の診断書はきっぱりお断りしています。

メンタルの状態は、骨折などと違って、治療や環境によって変化します。
いきなり「3ヶ月の休養加療」だとか、
まして「半年」などと書く精神科医は信じられません。
また安易に「(会社休みたいので)診断書ください」という
患者さんの意識も理解できません。
診断書はもっと厳正であるべきです。

今回のことで医師も患者も、診断書のあり方について考える機会になればと思います。

元記事 心療内科医まき@梅田(←リンクあり)

では今日は「くるり」の「奇跡」を贈ります♪ 
くるりの歌は優しい気持ちになるので好きです。

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