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幼い依頼人

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みなさん、こんばんは。
毎日暑いですね

今日は久々に映画のブログです。

「幼い依頼人」これは見ていて辛くなる児童虐待を扱った映画です。
この映画が「漆谷継母児童虐待死亡事件」という実話をベースに作られている
という事実がすごく重いです。
継母が虐待するだけではなく、虐待によって死亡した継子ミンジュンの死について
恐怖というマインドコントロールで、ミンジュンを可愛がっていた姉ダビンに
罪を被せるという狡猾さ。見ていて反吐が出そうでした。

以下はネタバレを含みますので、観てない人は飛ばしてもらっても大丈夫です。

ロースクールを卒業後、出世することだけが目標のジョンヨプ(イ・ドンフィ)は
ある法律事務所の面接で、有名なキティ・ジェノヴィーズ事件において、
被害者は自宅前で35分も強盗犯に襲われており、38人もの多くの人が
それを目撃していたにもかかわらず、誰も助けなかったことについて問われ、
他の面接者が、法で裁けなくても傍観者は有罪であると主張する中、
そんな犯人から身を守る権利があるし、法に反してないので無罪だと主張。

自説になんの疑問も持たず傍観者を擁護する考えだったジョンヨプが、
傍観者でいることをやめ、被虐待児のダビンを守ろうとする過程を描きつつ、
事件を描いています。

いつまでもブラブラと働かない弟に業を煮やした姉によって
児童福祉館で渋々働き出したジョンヨプ。
警察からの通報で退職予定の女性と交番に駆けつけると、
継母に首を締められ訴えて来たダビンと出会います。

「私が間違ってますか?悪い人がいたら警察のおじさんに言うようにならったのに」
と問いかけるダビンに大人達は困惑。
しかしジョンヨプだけは「ここ(警察署)に来たことは間違ってない」と答えます。

その後同僚女性とともにダビンを自宅へ送り、継母と面談しますが、
継母にセラピーなどを勧めただけであっさり帰るしかありません。
虐待が疑わしくても何もできない無力感で耐えられず退職を決意した女性は
自分の無力感や苦悩を言葉にしますが、ジョンヨプにはあまり響いていません。

子供は嫌いだけど、子供がお金になるとしか思っていない父親。
だから継母に「文句を言わずに面倒を見ろ」と言うだけです。
近所の住人もダビンの担任教師も虐待に気づきながら、

誰も「自分が助けよう」とは思っておらず、まさに傍観者です。
口では「大丈夫?」とか「助ける」と言いながら、
誰一人助けようとはしない大人達にはもう何も期待しなくなったダビンでしたが、
唯一警察に行ったことを肯定してくれたジョンヨプを頼って訪ねます。

戸惑いながらも2人にハンバーガー🍔をご馳走したり、動物園に連れて行ったり。
2人はまたジョンヨプと一緒にハンバーガーを食べる日を待ち望み、
ジョンヨプは2人を追い払うように5万ウォン(2人の子供にしては大金で
日本円だと5500円くらい?)とゴリラのぬいぐるみを渡してソウルの法律事務所へ。

めでたく採用され、嬉々として旅立つジョンヨプ。
しかしハンバーガー店の前で佇む姉弟を見て少し胸を痛めます。

その後も虐待は続き、ダビンは好意的な同級生ジャンホのスマホを借り
ジョンヨプに助けを求める電話をかけますが、
何度かけても留守電のメッセージばかりが流れます。

結局ジョンヨプがあげた5万ウォン札を見た継母が、自分の財布から取ったと思い、
「殴られ足りないから悪いことをするんだ」とミンジュンを殴る蹴るの暴行を続け、
腸管膜が破裂したミンジュンは亡くなってしまいます。

継母はそれをダビンがやったことにしようと恐怖で支配して偽の自白を強要。
継母に殺されるか、偽の自白をするかの究極の選択を迫られたダビン。
生き延びるためには偽の自白をするしかありません。

恐怖と弟を守れなかった後悔から絶望するダビンを周囲は好奇の目で見るだけ。
駆け付けたジョンヨプは警察に連行される車中のダビンに必死で声をかけるますが、
ダビンはもう心を閉ざしてしまいます。

虐待死の原因が、実は自分のあげたお金であること、
一緒にハンバーガー🍔を食べに行くという約束を守れなかったことで
深く自責の念に駆られたジョンヨプは、もう傍観者でいることをやめ、
憧れだった法律事務所を辞めてダビンを守るために動き出します・・・。

映画の中ではダビンを助けようとするジョンヨプや、
ダビンに好意的な同級生ジャンホが、ジョンヨプからのプレゼントを
ダビンに届けてくるシーンがありますが、実際にはそういう存在は全くなく、
孤立無援の12歳の少女が、絶望の中で偽の自白を強要され、必死で闘ったのです。

漆谷継母児童虐待死亡事件 ←リンクあり。

その事件の凄惨さは筆舌に尽くしがたいもので、洗濯機に入れられて回されたり、
浴槽に顔を突っ込まれて気絶させられたり、唐辛子10本を口に突っ込まれたり、
縄で縛られて階段から突き落とされたりとありとあらゆる虐待を受けていました。

身体はもちろん、こんな虐待を受け続けていたら心が死んでしまいます。
後にわかったのは、虐待は継母だけではなく実父からもあったという事実です。

実際に保護しようとした親類に対しても、両親がそれを阻止するために
「姉妹がこの親類から性的暴行を受けた」と訴えて親類を遠ざけたり、

学校が虐待の痕跡を確認しようとすると「服を脱がされて娘が恥ずかしがっている」
と抗議して確認できないようにしたり。
誰かが児童保護機関に通報する度に継母は虐待を否定し、通報の度に虐待はエスカレートしたようです。
映画よりも凄惨で目や耳を覆いたくなるものだったことは想像に難くありません。

日本でもそうですが、保護者は親権という絶対的な権利を持っています。
特に実際の事件当時はそうです。当時は親が同意しなければ、虐待されている
可能性があっても子供を避難させるために隔離することもできませんでした。

そして児相はなんの法的権限もありません。
訪問しても親が扉を開かなければ、すごすごと戻るしかないのです。

私は子どもセンターで10年間嘱託医をしていました。
子どもを学校に行かせない親というのは、皆さんが思っている以上に存在します。

その理由はさまざまで、明らかにお母さんが統合失調症で未治療のため、
家の窓に目張りをしたりして、被害妄想から子供を外に出せないケースもあれば、
子どもを支配して教育など無駄だと学校に行かせないケースもあります。

また学校給食がその子にとって唯一摂れるまともな食事であるというケースも珍しくありませんが、
親は給食費を払っていないこともしばしばです。

子どもと面接をするときは、基本子供だけと面接をしますが、
親が無理に付き添って、面接時の子供の言動を監視していることもあります。
拒否する権限はありません。

虐待の通報があっても、圧倒的に職員は足りません。
一緒に訪問に同行したこともありますが、職員が
「先生、訪問してもお母さんが扉をあけてくれないので、お母さんが買い物に
行ってる時間に道端で声をかけますのでよろしく」ということもありましたガクリ汗
道端で声を掛けた母親は当然不審そうというより、むしろ敵愾心に満ちた目で
こちらを見ます。虐待の通報があっても確かめる術もないのです。

「よく眠ってますね~。子育てで悩むことがあればいつでも相談してくださいね」
と声を掛けるしかできず、その腕に抱かれてすやすや眠る乳幼児の身体に
触れることもましてや身体を診ることもできないのです。
この母親が本当に虐待していたとしても、まずは寄り添わなくてはなりません。

一方で母性を求められ、子どもは可愛いのが当たり前という価値観を押し付けられ、
でもどうしても我が子を可愛いと思えず、虐待してしまい悩む母親もいます。
そういう自分をなんとかしたくて相談に来たり、受診する母親には、
一度子供と距離を置くことを勧めるのですが、母親がそうしたいと思っても
夫や舅姑が大反対したりして、うまく距離をおけないこともしばしばです。

母親の苦悩よりも子供の安全よりも世間体を重視するケースがほとんどです。
しかしそういうケースで夫やその家族が母親の負担を肩代わりして
子供を日中預かるなどの協力をしてくれることはまずありません。

「母親なんだから可愛がって、面倒を見るのが当然」という態度なので、
母親は逃げ場を失ってしまうのです。これも悲しいことによくあるケースです。

一度とある病院の院長が、自分の病院に持ち込まれた非常に厄介なケースを、
子どもセンターに丸投げしてきたことがあり、所長が途方にくれていて
どう対応すべきなのかを相談されたこともあります。

マスコミに吊るしあげられるのではないかと不安がる所長を見ていると、
気持ちはわかるものの、なんだか本筋から逸れている気がしました。

私たちはあくまでも虐待をいかに防止するかが大切であり、
そして時には虐待したくないのにしてしまう母親の気持ちにも寄り添いつつ、
与えられたほんのわずかな権限の中で介入するしかないのです。

マスコミに叩かれないために動くというのは本末転倒ですが、
マスコミの報道の仕方にも問題があるのだと思います。

人々は悲惨な虐待事件が報道されると「児相はいったい何をしていたんだ!」と憤り非難します。
誰かがなんとかしてくれることを願う傍観者であることの罪悪感から
責めやすいところを責めるのかもしれません。

だけど私は声を大にして言いたいです。

それなら児相にもっと法的権限や拘束力を与えるべきであり、
もっと人を増やすべきです。それもエキスパートを。
児相の嘱託医も圧倒的に不足しており、私が嘱託医をしていた頃は、
嘱託医が児相に行くのはなんと月に1回、数時間のみなのです。
初めは月に2回だった勤務が、虐待などが増加しているにもかかわらず、
月に1回に減らされ、その数時間で1ヵ月分の相談業務を行わないといけません。
しかも出勤に1時間高速で通っていたのに交通費はなく、途中でもし事故にあっても
労災も何も認められないという状況で、ほぼボランティア状態でした。

本来であれば精神科医は常駐すべきなのではないでしょうか。
見ていると職員もいつもフル稼働していました。
一人で膨大な相談件数をこなし、挙句に法的な権限はないのです。

児相の役割は何も虐待だけではありません。
素行が不良の子供や、障害を持つ子供たちの対応もしなくてはならないのです。
映画の中の女性職員の無力感、悲しさは痛いほどわかりました。

そしてこの映画、継母役のユソンやジョンヨプ役のイ・ドンフィ、
そしてダビン役のチェ・ミョンビンまで、俳優達の演技がうますぎるために、
よりリアルで目を背けるたくなるような作品になっています。

映画では裁判の最後に継母が母親とはどんなものか?とジョンヨプに質問され
「いないのに知るわけない!」とキレるシーンがあります。

継母もまた母性に触れたことのない可哀想な人間なのかもしれませんが・・・。
しかし、母親から優しくされたことがないから他人に優しさを求める人間、
他人に優しくなれない人間、優しくなろうと努力する人間。
一概に母親がいなかったから可哀想というのはやはり違うと思うし、
継子に虐待したり、まして殺したりする言い訳にもならないと思います。

ですから個人的にはこのシーンは不必要だった気がします。

漆谷継母児童虐待死亡事件の被害者は現在は既に成人しており、
アートセラピーを学び、自分のような被虐待児の力になりたいと頑張っています。

継母や実父から受けた虐待により、似た人をみると呼吸困難になるなどの
フラッシュバックに苦しみ、トラウマを抱えた彼女は、立派なサバイバーなのです。
サバイバー特有の生き残った罪悪感に苦しむことも多かったと思いますが、
これからの彼女の人生が豊かで幸せなものであることを切に祈るばかりです。

ちなみに冒頭の面接シーンで話題となったキティ・ジェノヴィーズ事件

Wikipediaの中に「モーズリーは事件前から同様の犯行を繰り返して
傍観者心理を理解していたらしく、早々に住人に発見されたにもかかわらず
逃げなかった理由について、『発見者はすぐ窓を締めて寝るだろうと思ったし、
その通りになった』と告白している」とあります。

この事件から「傍観者効果」という言葉が生まれ、私は19歳の時に
ビブ・ラタネ他著の「冷淡な傍観者~思いやりの社会心理学~」という本を読み、
ショックを受けたことを覚えています。

以下はその中の一部抜粋したものです。

「緊急事態発生にあたって、居合わせた人々がどんな行動をとるかは、
彼らが何人ぐらいるか、その数に左右されることが非常に多いのだが、
それは多ければ多いほど、人が動きやすいはずだという
一般の解釈とはどうも逆なようだからである。
むしろ実際には、そうした極めて明白と思われる一般の受け取り方とは正反対なのである。
他人の存在は、人助けしようとする衝動を抑制する働きがある。
傍観者の各々が他の人たちもいることに気づいていると、
彼らの、事態発生やその緊急性についての認識は鈍り、
また、たとえ緊急事態と判断しても、行動に移ることを敬遠するようになる」

             『冷淡な傍観者~思いやりの社会心理学』より抜粋

人々は決して冷淡なわけではなく、「誰かが通報するだろう」
「誰かが助けるだろう」という心理が働いてしまうようです。
そしてまた率先して自分が助けることが恥ずかしかったり、目立つことを避けたり、
中には目撃したことが現実だときちんと認識できなかったり、パニックになったり、
事態を把握しても身体が硬直して動かなかったりということもあるでしょう。

傍観者を非難することは簡単ですが、ではいざ自分がその立場になった場合、
ジョンヨプのように傍観者でいることをやめ、なんとか助けようと動くことのできる
果たして人間は何人いるのでしょうか?

Written by まきメンタルクリニック 院長 西崎真紀

では今日は「幼い依頼人」の予告編をお贈りしますカチンコ

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