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ゴーンベイビーゴーン ~正しいこととはなにか?~

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みなさん、こんばんは。

今日は以前から書きたい、書きたいと思っていた映画
「ゴーン・ベイビ・ーゴーン」について書きたいと思います。

この映画はベン・アフレックの初監督作品であり、
モーガン・フリーマン、エド・ハリス、ミシェル・モナハンなど実力派の面々が、
主演のベン・アフレックの弟ケイシー・アフレックの脇をしっかりと固めている。

あらすじはかなりネタバレで長いですが、興味があればご一読を。

ボストンの小さな街、みんなが知り合いのような街で、ある夜、4歳のアマンダが
母親のへリーン(エイミー・ライアン)がちょっと目を離した隙に姿を消した。

テレビのニュースではへリーンが悲痛な面持ちで「私の娘を返して」と訴えている。
ワイドショーは一斉にこのニュースを取り上げている。
一方アマンダの叔母であるビー(エイミー・マディガン)は厳しい表情で、
「子供を返しさえすれば、訴えないから、すぐ返しなさい」と毅然と言い放つ。

そんな画面を見ていた探偵のパトリック(ケイシー・アフレック)と
パトリックの相棒であり、恋人でもあるアンジー(ミシェル・モナハン)。

警察も動く中、ビーとその夫でへリーンの兄ライオネルは
なんとパトリックに捜査を依頼してくる。
初日に事件を解決しないと検挙率は10%に落ちると言われる誘拐事件で、
アマンダがいなくなってから既に3日も経っているのだ。
突然の依頼に困惑するパトリック。

アンジーは「ゴミ箱に捨てられた子供の遺体は見たくないし、性的いたずらを
された子供も見たくない」と言い、事件に関わりたくないと思っていたが、
「とりあえず話だけでも聞こう」というパトリックについて、へリーンのところへ。

訪ねた先にいたへリーンはアンジーの高校の同級生。
友人と一緒にラリっているへリーンはアンジーに悪態をつく。

テレビの画面とは全く違って、娘を心配している母親とは思えない姿だったが、
アマンダの写真を見てアンジーは捜査を手伝うことを決意。
街で生まれ育ったパトリックは、裏社会にも顔がきくため、
警察がまだ入手していない情報も入手可能。

薬物のディーラーであるパトリックの友人“闇の帝王” スレインから情報を得て、
調べていくうちに、ヘリーンはかなりのジャンキーで、ちょっとすれっからし。

以前からアマンダを放置する事が多く、見かねた叔母夫婦がアマンダの
面倒をみることも度々あったこと。今回もへリーンはアマンダを2時間も放置し、
恋人のレイとバーで酒と麻薬におぼれていた中での誘拐事件だったことが判明。

刑事のレミー(エド・ハリス)とニック協力して捜査を進めるパトリックとアンジー。
警察らの情報で、街の麻薬の売人の元締め、
チーズから何者かが大金を奪ったことが判明。
ヘリーンはレイとやったと事を認め、刑事やパトリック達とレイの家に向かうが、
レイは既に殺されていた。奪った大金は裏庭に埋められたまま。

自分たちが大金をチーズから奪ったために、アマンダが誘拐されたのだと、
ようやく事の重大さを認識し始めて慌てるへリーン。

チーズに子供を返すよう説得に行くパトリックとアンジーだったが、
チーズから「子供なんか知らない。もっとマシな捜査をしろ!」と罵声を浴びせられる。
確かに誘拐にしては身代金の要求も何もないのだ。

しかしその後チーズからアマンダの衣服と共に奪った金を渡せと指令がくる。
このことが警察への通報の録音で判明し、ドイル警部(モーガン・フリーマン)から
レミーやニック、そしてパトリックとアンジーも叱責を受ける。

指定された取引場所まで赴くと、いきなり銃撃する音が聞こえ、
チーズは何者かに射殺され、湖に何かが落ちる音がする。
高い断崖の上から湖を覗くと、アマンダの人形が浮かんでいる。
アマンダも落ちたのでは?と、アマンダを助けるために飛び込むアンジー。
しかしアマンダを見つけることはできず、遺体も発見されないまま。

責任を取る形で警察を退職したドイル警部。
屈辱的な辞め方だったが、彼はそれを受け入れる。

こうして犯人であるはずのチーズが殺され、アマンダの生存も絶望的となったまま、
事件は一旦収束してゆくかに見えるが、アンジーの心には深い傷が残る。

その後少年の失踪事件が発生し、小児性愛者のコーウィンに容疑がかかる。
同じ刑務所にいた元犯罪者夫婦と同居をしている家にスレインと共に赴くパトリック。

コーウィンの容疑に確証を得たパトリックは、
ニックとレミーと共にその家に踏み込むが、
いち早くそれを察知され、ニックは銃撃されて
「911」にコールし、応援を求めるパトリック。

コーウィンのいる2階に上がってゆくと、バスタブに少年の遺体を発見する。
「あれは事故だったんだ」と床に泣き崩れるコーウィン。
しかし怒りにかられたパトリックは、無抵抗のコーウィンを射殺してしまう。

罪悪感を抱くパトリックに、レミーは決然たる様子で語り始める。
「子供は右の頬を殴られても親を赦して、左の頬を差し出す。だが子供には何が残る?」
「昔子供に虐待をしていた父親を、冤罪で刑務所に送ったことがある。
子供を虐待するヤツは全部叩き潰してやる」と。

結局病院に搬送されたニックは死亡。葬式のとき、パトリックは警官の友人に
レミーの証拠捏造の話を聞き出そうとするが「警官を敵に回すな」と一蹴される。
しかし、その警官から「レミーはヘリーンとレイの金の事をチーズより先に知ってい
たような節がある」と聞いたパトリックは違和感を覚える。

ヘリーンの兄のライオネルを問い詰めると、彼はレミーとニックと共謀して、
金の為にアマンダを誘拐したが、金が手に入れば無事に戻すつもりだったのだという。
しかし、妻であるビーが予想以上に騒ぎだし、自分の年金を使ってでも探偵を雇うと
言い始め、予想外の大事になってしまった上、取引の時にアマンダが誤って
湖に落ちてしまったと告白する。

そこに変装をしたレミーが現れる。「何を喋った?」とライオネルに銃口を向けるレミー。
「金のためにやったことを告白した」と言うライオネル。そこで銃口を下げかけたレミー。
しかし店のバーテンダーがレミーめがけて銃弾を2発打ち込む。

なんとかビルの屋上に逃走するレミーを追い詰めるパトリック。
「子供は好きだ」と言い残して死亡するレミー。

現職の刑事が殺された事で尋問を受けるバトリック。
最初は「他に何を言えと?」とキレ気味なパトリックだったが、
そこで「脅迫状を見たのか?」「通報をいちいち録音などしていない」と聞き、
事件の背景にあるカラクリが、頭の中に手に取るように浮かんで来る。

晴れた日、パトリックはアンジーと共に田舎にあるドイル警部の家に向かう。
「本当に後悔しないの?」と訪ねるアンジーに「わからない」と答えるパトリック。

車を家の手前の道端で停め、「私は行かないわ」というアンジーを残して家に行くと、
そこには幸せそうなアマンダの姿が。

へリーンがレイと一緒に、チーズから奪った大金を持って、街から逃げ出すと知った
ライオネルが、ドイルとニックとレミーに相談し、4人で共謀して計画を練り、
母親失格のヘリーンからアマンダを救出する目的で連れ去ったのだと述べる。
彼らの目的は決して金ではなかったのだ。

「君も30年もすればわかる日が来る。アマンダの将来を奪わないでくれ、
どうかこのまま引き返してくれ、アマンダがまたへリーンのような道を歩み、
その子供に君が謝っても、もう手遅れなんだ」と頼むドイル。

「でも10年後、『あなたはわかっていたのに私を母親の元に戻さなかった』と
言われる後悔は僕はしたくない」と拒否するパトリック。

アンジーは涙ながらに「アマンダは幸せそうだわ。このまま見守ればいいのよ。
へリーンはもうクズよ、治らないわ。あなたは間違ってるわ」と訴えるが、
パトリックは「頼むから僕の見方をしてくれ」と言い、結局警察に通報する。

この事件後、アマンダはパトリックの元から去ってゆく。
「もう何も話すことはないわ」と言い残して。

こうしてアマンダはヘリーンの元に戻される。
テレビのインタビューに「子供からは絶対に一瞬も目を離さないことね」と
答えたヘリーンは、その舌の根も乾かないうちに、
「テレビを見たという男性から手紙をもらってこれからデートするのよ」と
浮き浮きとデートの身支度。

兄のライオネルは刑務所に行ったし、義姉のビーも出て行って、
口うるさい親族がいなくなったことで「せいせいしたわ」と言うへリーン。

子守を頼まれ、アマンダの様子をなんとも言えない複雑な表情で見守るパトリック。

この映画は決してハッピーエンドとは言い難いです。

そして[本当に正しい選択とは何か?] を私たちに問いかける形で終わります。
結末にはさわやかさもなければ、晴れ晴れもしない、やるせなさが残ります。

果たしてパトリックの選択は正しかったのか?
法的には正しいし、アマンダを実の母親、(れがどんなに母親失格であっても)の
元に戻してくれという、もともとのビーの依頼には忠実に応えているわけです。

でもなんでしょう?この胸の中に残るモヤモヤした感情は・・・。
なぜかパトリックに全く共感できない私。

パトリックが描くライオネルやドイル、ニック、レミーの4人の計画の中で、
(これがおそらく事実なのでしょうが)レミーは言います。
「僕たちは何人の子供たちが壊れていくのを見てきたでしょう?もう十分です」
(これは映画の中の英語の直訳で、日本語訳は微妙に違いますが)

子供たちの無力さ、自分たちの限界、いつもこうした場面で辛い思いをしてきた彼ら。
ライオネルからの相談に、たったひとりでも救いたいという想いが募った結果です。
そのために結局ニックもレミーも死んでしまいます。
それでも彼らはアマンダを守りたかったのではないでしょうか?

ではアマンダの救出とはいえ、このような犯罪を擁護するのか?
そう問われると、はっきりと「イエス」とも言い切れない。

法がすべてを解決できるわけではないのです。
所詮人間の作った法律、実社会では法律で解決できないことだらけです。
けれど、「だから法律を破っていい」ということにもならないと思います。

それでもなお、数分後には逮捕されるドイル元警部の膝の上で幸せそうなアマンダや、
逮捕を覚悟しているドイル元警部の表情を見ていると、
私はやっぱり、アンジーの意見に賛成してしまいます。
「ただ見守っていればいいのよ」
ドイル元警部夫妻の元にいればただ見守っていればいいアマンダも、
へリーンの元に戻ってしまえば、どんなことがあっても口出しもできません。

私が子どもセンターの嘱託医をしていて、限界を感じたことは何度もあるのです。
それほど親権は強いものなのです。

アメリカが(現代の日本でもそうですが)、抱える闇、ドラッグと虐待・・・。
へリーンだってクズのような女性ですが、そうなった背景もあるのかもしれません。

へリーンのもとに戻ったアマンダの将来もまた、非常に微妙であることは否めません。
ドイル警部が「あの子(アマンダ)の将来を奪わないでくれ」と懇願するシーン。
胸を揺さぶられます。

正しいこととは何か?誰にも明確には答えられないでしょう。
それぞれがそれぞれの立場で正しいことをしたと思っているのです。

でもライオネルもビーもいない今、アマンダは誰が守るのでしょうか?
ジャンキーのへリーンは、また同じ過ちを繰り返しそうな予感を含んだラストシーン。

この作品はデニス・レヘインの「愛する者はすべて去りゆく」を映画化しているのですが、
原作を読んでみたくなるような、上手な描き方だったのではないかと思います。

ボストン出身のベン・アフレックが、初の監督作品となったわけですが、
監督としての手腕はなかなかのものだと思います。
最初は弟のケイシーではなく、自分が主役をやろうと思っていたそうですが、
監督に専念して正解だったと思います。

こんなに素晴らしい作品なのに、日本では公開されなかった映画です。
DVDで観るしかないのですが、カメラワークも非常によい作品だっただけに、
映画館で観たかったなというのはあります。

皮肉にも、昨年監督のベン・アフレックは、「ゴーン・ガール」で
どうしようもない妻の失踪で、私生活を暴かれ、
妻殺しの容疑までかけられた男をうまく演じていましたね。

では今日は5Seconds of Summer(通称5SOS)でShe’s Kinda Hotを贈ります♪

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