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精神保健指定医の資格不正取得問題について

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みなさんこんばんは。
変な気候が続いて、気づけば木々も色づきもう11月・・・。
10月は全然記事を書いてませんでした。

一昨日の朝、スマホのメールに私の漢方の師とも言える木下優子先生の訃報が。
まだまだお若かったのでびっくりするとともに、とても残念です。
漢方の世界でも惜しむ声は多いでしょう。

木下先生の勉強会は、まだまだ未熟者の私でもわかりやすく、
ざっくばらんで、言いたいことは堂々とはっきり仰る姿勢は
僭越ながらどこか自分と似ていると感じてとても親近感を持っていました。

勉強会などではいつも「先生、元気?」と気軽にお声を掛けてくださったお姿が
今でもはっきりと焼き付いて、ただただご冥福をお祈りするばかりです。

話は変わって10月終わりに駆け巡った精神保健指定医の資格不正取得問題。
一般の方にはあまりなじみはないでしょうが、ブログに書いた通り、
精神保健指定医とは重い精神疾患の患者を強制的に入院させる措置入院の判断や
患者の隔離や身体拘束などの判断ができる国家資格です。
特定の学会が認定した専門医や認定医とは格が違うと私は思っています。

その資格を不正取得した医師が2009年から2015年の間に49人、
その医師を指導したはずなのにきちんとチェックできていない医師が40人。
合計89人の医師が資格を取り消されています。
これだけの期間でこの人数。なんだか本当にトホホな状態です。

新聞にも医師の名前が発表されていますので以下にリンクをしておきます。

精神保健指定医の資格不正取得医師とその指導医氏名(←リンクあり)

兵庫県がダントツの28名!兵庫県民の私としてはがっかりです。

しかも知り合いの医師が数名、指導を怠った医師として載っています。

聖マリアンナ医大や愛知医大、兵庫医大、京都府立医大など
大学病院も多く、大学の医局ぐるみといわれても仕方ないお粗末さですね。

また県立光風病院などは症例の宝庫とも言える兵庫県の基幹病院的なところ。
そこでの不正が多いというのはどうなのでしょうか?
けっして「ケースレポートの症例がなくて」ということではなさそうです。
ですからそこではこういう不正が昔から横行していたとしか思えません。

私は神戸大学での研修1年目を終え、2年目の研修先を選ぶ時に、
当時県立光風病院に勤務していた先輩の先生から、
「県立光風に来ませんか?」というお誘いを受けました。
「光風病院に来たら、将来エリートの道が約束されていますよ」と言われました。

また、光風病院に行きたがっていた別の先輩は、その後希望がかなって、
光風病院に勤務となりましたが、「早く結婚したい!」と言っていました。
「学会とかで頑張って発表しても途中で姓が変わると私だとわからなくなるから」
というのが理由だそうです。私はこの先輩たちに強い違和感を持ちました。

ん?ってことはこの人は自分は将来はエリートだと思っているのかな。
学会発表ってこの人にとっては有名になるツールなのかな?
そんなに「エリート」だの「有名になる」だのが大事なんだろうか??

私は心の中で嫌悪感を感じて、お誘いは即座にお断りしました。

皮肉にもこんなことで病院の名前が全国に知れ渡り、実名まで出されましたが
県立病院ですから、そこで働いている医師は公務員です。
国立大学病院の医師も、都立病院や県立病院の医師も公務員ですから、
公務員がこうした不正を働いたり、不正を漫然と見逃していたわけです。

不正に資格取得した医師たちの言い訳がまた情けないものでした。
「当直の時に診たからいいと思った」などが多かったようですが、
非常に密に診察をした医師(つまりは主治医)でなければならないことは、
資格取得の条件として明記されていることで、なんの言い訳にもなりません。

医師によっては「指導した医師なんて署名押印しただけなのに気の毒だ」
などというバカげた発言も見受けますが、そもそも大事なレポートの提出に際し、
しっかりと指導をしなくてはいけない立場なのに、
ちゃんと指導をしていないのが問題なのですから、資格剥奪されて当然です。

精神保健指定医資格審査部会は以下のようにコメントしています。

「国民の信頼を揺るがす行為であり、言語道断である。
故意であるか否かに関わらず、申請者による不正な申請を
指定の要件を満たす申請であると証明した指導医の責任も重大である」

しかし納得がいかない点も残されています。

相模原市の障害者施設で19人が刺殺された事件で殺人容疑で逮捕された
植松聖容疑者(26)の措置入院に関わっていた医師

今年8月に行われた医師の弁明を聞く「聴聞」の対象でしたが、
この医師は自ら資格を返上したことで名前を公表されていませんね。

聴聞前に自ら資格を返上したから許されるというものではありません。

自ら資格を返上した医師は6人に上ります。
ではこの6人は良いというわけではもちろんないですよね。

万引きにたとえるのはたとえが良くないのは重々承知の上で、
たとえば集団万引きをした人とそれに加担した人が捕まったとしましょう。
しかし万引きして一旦店を出たものの、警備員に見つかりそうになったので
慌てて店に戻って商品を返したら「セーフ!」というわけではないのと同様です。

彼らは精神保健指定医の資格を持ち、患者を診察し、措置入院の決定、
医療保護入院の決定、あるいは隔離や身体拘束を指示して来たわけで、
その資格(権利)を既に十分に行使しているわけです。
その資格の行使が正しかったのかどうか?疑問を持たれても仕方ありません。

上記の医師たちの処分は、おそらく医業停止1~2か月。
11月9日にその処分の効力が発生するようです。

精神保健指定医の資格の再申請は5年間禁止です。
では5年経ったら申請できるのか? 単純に言えば答えはイエスですが、
実際にはおそらくもう無理でしょう。

実名が公表された以上、信頼を著しく失墜した精神科医を雇ってくれるほど
精神科業界も甘くはありません。彼らはこの先どうしていくのでしょう?
と普通は思うでしょう。しかしおそらく大半はそのまま病院に残ると思われます。
しばらく業務停止になり、ちょっと恥ずかしい思いをするだけです。

指導医なんて「とばっちりで可哀想」と気の毒がってくれる人までいるのですから。
「共犯」という意識もなく、なんだかなぁって感じですね。

そして一つ大きな誤解があるのですが、
精神保健指定医の資格は精神科病院にいてこそ使うもので、
開業医だと初診の診察料が高くなるというのは、
その医師が常に救急病院と連携して対応している場合に限られます。
普通の開業医にとっては資格があっても診療報酬が高くなることはありません。

だったら要らないのではないか?という考えもあるでしょうが、
一度資格を返上してしてしまったら、次に取るのはほぼ不可能です。
頑張って取得した資格なので大事にしたいのは当たり前です。

この資格は5年毎に更新しないとダメで、
私も昨年、更新のための講習会を丸一日受けました。
正直、真剣に聞いている人も多い中、更新のための講習の最中に
ずっと寝ている人や、パソコンやスマホをいじって別のことばかりしている人は、
精神保健指定医の資格を更新してもらいたくないです。

私だって完全予約制でリスクを負ってクリニックを続けていますが、
いつ体調を崩したり、もう嫌になってやめるか先のことなどわかりません。
週に2日程度非常勤で精神科病院で勤務してのんびりしたいと思った時、
この精神保健指定医の資格がないと勤務が困難になります。
どこの病院でも精神保健指定医が欲しいわけなのです。

しかし、いくら精神保健指定医の資格を持っていても
それはあくまでも精神科医療における法的側面を理解しているかどうかであり、
また精神科専門医を持っていたとしても本当に専門的な知識が深いとは限りません。
資格だけで判断するのも危険かもしれませんね。

じゃあ、何を信じればいいの?って思うでしょうね。
私にも答えはわかりません。

とにもかくにも世間的には驚きのニュースでしょうが、私にしたら、
あら、やっと表面化して問題になったのね、程度のことでした。
こんなだから、日本の精神医学はいつまででも薬漬けであったり、
世界でも有数のベンゾジアゼピン大国であったりするのでしょう。

なんか書いていてやるせなくなるような内容ですが、一応アップしておきましょう。

では今日は懐かしいSwallowtail Butterfly 〜あいのうた〜を贈ります♪

円がどんどん強くなって行った時代、豊かさの裏で何を失ったのでしょう。
退廃的で優しいメロディーとCHARAの歌声がとても好きです。

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