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アルコール依存について

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みなさん、こんばんは。
今日は巷で話題になっている「アルコールの問題」について書いてみます。

TOKIOの元メンバーのY氏(既に事務所と契約解除されており、一般人ですが、
誰でも知っている人なのでイニシャルで書きます)
ここではアルコール依存の一例として挙げさせていただきますが、
憶測を避けるため本人およびメンバーの記者会見から得た情報のみを引用します。

アメリカの操作的診断基準(DSM-Ⅴ)では
アルコール使用障害として次のようなことを挙げています。

アルコール使用障害とは

アルコールの問題となる使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、
以下のうち少なくとも2つが、12ヵ月以内に起こることにより示される。

1)アルコールを意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。

2)アルコールの使用を減量または制限することに対する、
  持続的な欲求または努力の不成功がある。

3)アルコールを得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに
  多くの時間が費やされる。

4)渇望、つまりアルコール使用への強い欲求、または衝動。

5)アルコールの反復的な使用の結果、職場、学校または家庭における
  重要な役割の責任を果たすことができなくなる。

6)アルコールの作用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、
  悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。

7)アルコールの使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、
  または縮小している。

8)身体的に危険な状況においてもアルコールの使用を反復する。

9)身体的または精神的な問題が、持続的または反復的に起こり、
  悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、アルコールの使用を続ける。

など。

難しい言い回しなので平易な言葉に置き換えると次のようになります。

①ついついお酒を飲み過ぎてしまう。

②節酒や断酒をしようとしても、ほとんどできたことがない。

③お酒のために時間を浪費する。

④お酒が飲みたくて仕方ない。

⑤お酒によって周囲に迷惑をかけることになる。

⑥周囲への迷惑(問題飲酒)が続いているのにやめられない。

⑦お酒のために自分の活動が制限される。

⑧お酒で身体を壊しても、懲りずに飲む。

⑨心身ともにお酒はよくないとわかっていても飲む。

簡単に言い換えればこんな感じでしょう。

これを見ると、Y氏は少なくとも①②⑤⑥⑧⑨は該当しそうですから、
アルコールの使用障害、一般的に言えば依存ですね。

アルコールの大量摂取により肝機能障害が生じ、それを治療するために
入院したにもかかわらず、退院したその日に焼酎を1本飲むというのは、
普通に考えても依存以外のなにものでもありませんね。

しかしY氏は記者会見で次のように述べています。
「自分としては依存的なものはないと思っている」

そう、アルコール依存の治療が難しいのは、まさにここにあります。
本人がアルコールに依存していることを否認してしまうのです。

なぜなら、それを認めると、お酒をやめなくてはならないからです。
Y氏は続けて、「ただ、お酒を控えないとなとは思っていた」と述べています。

アルコールを控えないといけないと痛感したことは何度もあったはずです。
ロケが円滑に進まなかったりして、メンバーに謝ったりしたそうですから、
アルコールを控えないと仕事に支障が出て、周囲に迷惑をかけてしまうことは、
十分にわかっていたはずです。わかっていてもやめられなかったのでしょう。

そして、「せっかく退院もしたから」とちょっと飲もうと思ったところが、
本人の言う「酩酊・泥酔状態」になって記憶がなくなるくらい飲んでしまうのです。
この記憶の欠落を、ブラックアウトと言います。

だから今回生じた問題についても記憶が曖昧で、相手がそういうんだからそうだろう
などと自分でも確信が持てないまま認めざるを得ない状況になっています。

反省すると言っても、また飲み過ぎたことを反省はできるでしょうが、
記憶にないことを心から反省するのは難しいんじゃないかと思います。

ここまで来ると、もはや自分の意志でアルコールをコントロールすることは不可能です。
つまり精神的にも身体的にも依存してしまい、治療が必要な状態だったと言えます。

アルコール依存については特定非営利活動法人アスク(←リンクあり)の
ホームページが非常にわかりやすいと思いますのでそちらをご覧ください。

TOKIOの松岡昌宏氏が語っていましたが、「依存症だと思っていたのに、
依存症という診断書が出ない」というのは確かに腑に落ちない方も多いでしょう。
精神科医じゃなければアルコール依存症の診断がつけられないわけではありません。
しかし、そこはやはり専門家じゃないとつけにくいという心理が働きます。

たとえば内科医は、基本的に身体を診るわけなので、
アルコール性肝機能障害という病名は簡単につけられますし、
アルコールを控えるようにアドバイスもできるでしょうが、
アルコールの依存に踏み込むのはためらうかもしれません。

うつ病とかパニック障害と違って「あなたはアルコール依存症ですよ」と言われても、
すぐに受け入れるのは難しいと思います。
もちろんうつ病やパニック障害を受け入れるのが簡単なわけではないですが、
それ以上に本人の否認の意識が強く働く状態だと言えます。

だから松岡昌宏氏が述べているように「ちゃんと自分に向き合う」必要があり、
アルコールに依存していることを自覚し、受け入れなければ治療は始まりません。

そしてもう一つ大切なことは、治療のモチベーションを保つためにも、
周囲のサポートが必要不可欠であるということです。
自分を待っていてくれる人や、見守ってくれる人が必要なのです。

会見ではTOKIOの4人のメンバーは、それぞれにY氏の記者会見での
「TOKIOに戻りたい」という言葉に怒りや不快感を示していましたが、
それは長年苦楽を共にしたからこその愛ある言葉だということは言うまでもありません。
心の中ではY氏のことを誰よりも心配し、心身ともに健康になることを
強く願っていることは、ひしひしと伝わってきます。

アルコール依存で入院する場合は大きく2つに分けられます。
ひとつは、自らがアルコール依存だと認め、その治療をするために入院する場合。
これは自らの意志で入院しているので、任意入院となります。

もうひとつは、問題飲酒で迷惑行動があったため、家族などが治療を望んで
入院する場合です。この場合は、お酒によって自傷他害の行為が切迫しており、
本人が治療を望まなくても社会的な必要性から家族の同意を得て、
精神保健指定医が診察して入院が必要だと判断した上で、
半強制的に入院させるので、医療保護入院となります。

まれにアルコールで幻覚妄想などが惹起され、それによって刃物を振り回したりして、
警察官などが通報し、精神保健指定医2名が診察し、2名ともが入院が必要だと判断し、
国家が入院費用を負担して強制入院となる、措置入院をする人もいます。

アルコール依存の患者さんは、問題を起こして医療保護入院しても、
「今、入院してても飲まないで過ごせたのだから大丈夫」
「やめようと思えばいつでもやめられる」とよく口にします。
現実から目を背け、自分は依存ではないと思いたがるのです。
自分の意に反して入院させられているくらいだから、
問題があるに決まっているのに、強く否定し続けることがしばしばで、
入院に対して主治医に不満を訴えたり、ときに攻撃的でもあります。

一方、アルコール依存専門に診ている精神科病院もあり、
そこではしっかりとしたプログラムがあります。
アルコール依存を治療したいと望んだ人が自ら入院することが多いわけですが、
自分から治療をしようとしているにもかかわらず、治療は困難です。

まず、身体的依存ができている場合は、離脱症状が生じるので、
その離脱症状と闘わなくてはなりません。
問題なのはほとんどの精神科医がここでベンゾジアゼピン系の薬剤を用いることです。

ベンゾ系はアルコール離脱の管理には確かに有効ですが、
離脱症状が長期に及ぶこともしばしばなので、必然的にベンゾ系も長期使用となり、
漫然とベンゾ系を処方した場合、ベンゾ系を服用していない場合よりも
アルコールを断絶できる確率は低いとされています。

さらにベンゾ系の薬剤とアルコールを同時に摂取すると、ベンゾ系の薬剤の
血中濃度が極端に上がり、変に脱抑制になったり、気絶するように眠ったりして、
ベンゾ系の依存を生じる結果になり、そうなると手がつけられません。
アルコール依存の上にさらにベンゾ依存を新たに作り出してしまう形になり、
患者さんをさらに混沌とした状態に陥らせる羽目になります。

実際アルコール依存の患者さんに併存する依存はベンゾ依存が最も多いのです。

だからと言ってベンゾ系を急激に断薬すると不安やパニックに陥り、
それを紛らわすためにさらにアルコールに依存するということになります。
こうして多重の依存に苦しむ結果になる場合があるのです。

無事にアルコール依存の治療プログラムを行って、社会生活に戻っても、
一度アルコール依存になった患者さんの毎日はリスクだらけです。

何かのお祝い事、会社での忘年会などの行事、同窓会など、
アルコールを勧められる機会は日常の中に山ほどあります。
そこで頑なにアルコールを断らなくてはなりません。
「まあ、一杯くらい付き合えよ」と上司から言われても、断らないとダメです。
空気を読めない奴、つまらない奴と思われることもしばしばでしょう。

私が以前診ていた患者さんは、すでにアルコールを絶って20年以上でしたが、
久々に小学校の同窓会があり、もうみんなも高齢になり、
今度はいつ会えるのかもわからないかもしれない旧友から、
何度も何度も「一杯くらいいいじゃないか、付き合ってくれよ」と言われ、
ついにビールを一杯くらいならいいだろうと、アルコールを口にしてしまいました。
その結果、本当にあっという間にアルコール依存に逆戻りしました。

最初は家族に隠れて飲んでいましたが、そのうち公然と飲むようになり、
家族がお酒を家に置かないようにしたら、家族に当たるようになり、
飲んでは大声で喚いたり、暴れたりという問題行動が目立ち、
家にお酒がないと、味醂まで飲むという有様でした。
頑張っていた20年がたった一杯のビールであっけなく元の木阿弥です。

こんなふうに一度アルコール依存になると治療は非常に難しく、
根本的な治療法は今のところ継続的な断酒しかないのです。

会見でY氏がアルコールを絶つという言葉を口にする際、
非常に歯切れが悪かったのが印象的でした。
Y氏は既に何度もアルコールを制限することに失敗し続けているのだと思います。
簡単に失敗する断酒を、今後一生続けるというのは至難の業なのです。

抗酒剤と呼ばれる薬もあるにはありますが、
抗酒剤を服用してアルコールを摂取すると非常に危険な状態になり、
また本人がこの抗酒剤をきちんと服用しなければ意味がありません。
さらに稀に、抗酒剤を服用してアルコールを摂取しても平気な人もいたりして、
体質的に生まれつき抗酒剤に免疫を獲得している人もいるのでやっかいです。

アルコール依存に陥った人たちが自助グループを作って助け合う方法もあります。
しかし自助グループの会に行って、その仲間と飲んでしまうこともあるのです。

私が以前診ていた別のアルコール依存の患者さんが、まさにそうでした。
彼はアルコールの摂取によって幻覚妄想が惹起されるアルコール性精神病でした。
内縁の妻は彼に愛想を尽かして出ていき、孤独からアルコールを飲む悪循環。

しかしある時、アルコールを過剰に摂取した際、被害妄想が出現しました。
殺されると思い込んだ彼は、殺られる前に殺ってしまおうと考え、
近くのコンビニに刃物を買いに出かけましたが、
たまたまその途中で出会った通りすがりの男性を刺客だと思い込み、
慌ててコンビニに飛び込んで包丁を買い、それを振り回して措置入院となりました。

飲んでいない時は無口で大人しい人なのです。
人づきあいが得意ではないので、嫌なことがあっても自分の中に溜め込み、
憂さ晴らしにアルコールを摂取しているうちに摂取量が増えてしまった人です。

少なくとも5~6回は入退院を繰り返したと記憶しています。
最初は理解を示していた職場の上司も、次第に呆れて仕事もクビになり、
ますます社会的に孤独になっていきました。

身内もおらず、職もない彼は生活保護となり、毎回同じような経緯で入院を繰り返し、
福祉の人が入院のたびに付き添うわけですが、
そんなに言わなくてもというくらい、厳しい言葉で彼に怒っていました。
私は福祉の人の言葉を遮り、淡々と再入院の手続きをしたのを覚えています。

待つ人もいない、将来になんの展望も持てない彼は、治療のモチベーションも低く、
退院したその日に、病院帰りにお酒を買って飲んでしまう繰り返しです。
しかし病院にずっと入院させておくことも出来ず、寄る辺ない感じでした。
医療ではこれはどうしようもありません。

自助グループに行くよう勧めても、そこで知り合った人と飲んでしまいます。
とうとう入院中の外出時間に飲酒して問題を起こし、強制退院となりました。
主治医としてはせつない気分でしたが、治療は困難だと痛感した人です。

アルコール依存は当然不安やうつ状態も併発しやすく、
周囲の理解や協力も必要なのですが、何の支えもなければ一層孤独になり、
不安や孤独感をまたアルコールで紛らわそうと間違った対処をしがちです。

酒は百薬の長という言葉もあるくらいですから、
アルコールそのものは楽しく付き合うにはいいかもしれませんが、
うまく付き合えなくなると悪いお酒となり、人生を狂わすのですよね。

Y氏もアルコールで人生を台無しにした人のひとりですが、
どうかきちんと自分の状態を受け入れ、向き合い、
どういう形であれ社会に復帰してほしいと思います。

元記事 心療内科医まき@梅田

今日は、今後また彼がアルコール依存に引き戻されないことを祈って、
「引き返しちゃいけないよね、進もう、君のいない道の上に」という歌詞が大好きな
ミスチルのくるみを贈ります♪

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