リストカットや大量服薬
みなさん、こんばんは。
今日はリストカット(手首などを切ること)や自分の身体に爪を立てたり、
あるいは大量服薬(大量ではないけれど過量も含めて)する人達について、
少し私なりの意見を書いてみたいと思います。
私が研修医1年目で神戸大学の精神科にいた頃、
患者さんの間で、夜中にリストカットをする行為が流行っていました。
その頃の患者さんのリストカットは、ほとんどがいわゆる「甘え」でした。
夜中にリストカットして看護師のいるナースステーションに行くと、
当直医が縫合にやって来る。
もちろん私が当直の時も、患者さんがリストカットしたからとよく呼び出されました。
私はリストカットの傷を診て、浅ければテープで止め、消毒して終わり。
ちょっと縫合しなければならない場合は、何針か縫合し、消毒した上で
とりあえず傷口が化膿しないように抗生物質を最低限処方して終わり。
夜中に薬を出すとなると、研修医が大学病院の離れのような精神科病棟から
薬局まで走って行って、薬剤師さんに頼んで薬をもらって来なければなりません。
こうした「構ってちゃん」のリストカットは本当に迷惑でしかないので、
私は淡々と処置をして、処置が終わると本人に眠るように促していました。
しかしたいていの「構ってちゃん」リストカッター(リストカットする人)は
淡々と処置しかしない私にこう聞きます。
「先生、どうしてやったか聞かないの?」
これが「構ってちゃん」の特徴です。
「どうしてやったのか、自分でわかってるでしょ? 私はあなたの主治医じゃないし、
あなたのためだけに当直してるわけじゃありません。話は主治医としてください」
わたしの場合、「このリストカットの痕、みてみて~!構ってよ~!」みたいな人は
相手にするのも疲れるので、必要以上には関わりませんでした。
でも私が担当している患者さんは、夜中にリストカットなどはしませんでした。
しかし、私以外の男性の研修医は、当直中、夜中に自分の担当患者や、
担当でない患者さんでも、リストカットされるとおろおろしてしまい、
処置だけしてればいいと思うのに、真夜中に延々と話を聞いていました。
「夜中に当直医が一人の患者に(生命に異常もないのに)かかりきりになって、
他の患者さんが腹痛や不眠を訴えても、後回しにしてまで話を聞くべきなのか?」と
私は何度か同期の男性医師達に尋ねました。
男性医師達は、同様にこう答えました。
「だって話を聞いてくれと言われるし、リストカットまでしてるんだから
ほおっておけないじゃないか」
私は心の中で、精神科医なのに、うまく患者さんに振り回されているなと感じました。
もっと言えば、それで本当の精神科医になれるのか?とも思いました。
中には「そういう時しかゆっくり話を聞けない」という医師もいました。
普段からきちんと担当患者と向き合っていれば、そんなことはないはずです。
だから私の担当患者さんは、夜中にリストカットなどしませんでした。
夜中にリストカットすれば当直医を独占できる・・・
彼らはそんな間違った学習をリストカッターの患者にさせてしまったのです。
瞬く間に夜中にリストカットする行為は病棟に蔓延しました。
夕方くらいになると「今日の当直の先生は誰ですか?」と患者さんが
ナースステーションに聞きに来るのです。
そして私が当直の日はリストカットしても意味がないので、静かでした。
その頃にはなんと患者同士で、今日は誰それの当直だから、
私がリストカットするから、といった変な密約までできてしまっていたようです。
若い研修医達が、患者に間違った対処をしたせいで、こんなことになったのです。
そういう「構ってちゃん」や「見て見てちゃん」(と私は呼んでます)の
リストカットは放置でいいと思うのですが、
そうじゃない場合の方が実際には多いので、臨床現場で問題となります。
当院でもリストカットしている人は何人かいます。
そういう人はなぜか、大量服薬も時々します。
漢方薬は無理ですが、西洋薬だと簡単に過量に服用できてしまいます。
圧倒的に女性が多いですが、たまに男性もいます。
なぜリストカットや大量服薬をしてしまうのか?
自分のクリニックの通院患者さんに対しては、ちゃんと尋ねます。
なぜなら、彼女たちは決して「構ってちゃん」や「見て見てちゃん」ではないからです。
「なんとなく落ち着くから」
「落ち着くの?スッキリするの?」
「はい」
「でも根本的には解決してないよね?」
「・・・・・・・」
「自分自身を罰してもいるの?」
「それもあります」
彼女たちは、間違った形で自分の葛藤を解決しているのです。
そしてその間違った方法だと一時的にはスッキリしても、根本的には何も変わらないので、
またすぐにその安易な方法(リストカットや大量服薬)を選んでしまうのです。
中にはリストカットすることでようやく生きている感じがしたり、
自分自身で我に返れるという人もいます。
もちろん中には幻聴によってリストカットする人もいます。
しかし、どのような場合であれ、主治医である私が
それを悲しく思わないはずはないのです。
リストカットしている人は自分のストレスや葛藤を誰にも話せず、
またどのようにして伝えていいのかがわからず、
人に迷惑をかけるよりは、自分でなんとかしようとして
リストカットしたり、過量服薬しがちなのです。
リストカットしてしまう患者さんを私が責めることはありません。
しかし主治医として悲しいという想いだけはしっかりと伝えます。
対人関係の中で、葛藤をためこんでリストカットや大量服薬をしてしまうのは、
本人だって本当はいいことだなんて思っているわけではないはずです。
治療者としての無力感や限界を感じる時でもありますが、
患者さんは、それでも治療しようと来てくれている限り、
私がその手を放すことはないと、安心して欲しいと思います。
リストカットや大量服薬をすぐにはやめられなくても、
頻度が減ってくれればいい、もしも私でよければ頼って欲しい。
そんな気持ちで、数人の患者さんには私の仕事用の携帯番号も教えています。
1日24時間、精神科医でいることはできないけれど、
電話があればできる限り出ますし、出られなくても折返しコールバックしています。
衝動的にやる前に電話してくれればいいですが、たいていはやった後ですが・・・。
あなたを気にかけている人がいる。
それが彼女たちへの私からのメッセージです。
では今日は春先に映画館で観て面白かった映画「ST~赤と白の捜査ファイル~」の
主題歌 ファンキー加藤の「太陽」を贈ります♪
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